求めよ、さらば与えられん

数年前のこと、大阪府南部の特養の管理栄養士・Iさんの依頼で、デザートスプーンの件でやり取りをしていました。ご要望は、かなり以前(多分30年近く前?)、新婚旅行で搭乗した飛行機の機内食で使用したのと同様のものを、とのこと。サンプルを何度もあちこちから取り寄せ手を尽くしたものの、それに近いものはあっても、深さが違う、曲げの角度が少し違うなどで、結局、ご要望にはお応えすることができませんでした。数本のデザートスプーンに妥協なく細部にまでこだわる姿勢に、この施設に入所されているお年寄りの方々は幸せだろうなあ、と感じたものでした。

時を経て昨年春頃のこと、仕事の話などをその体育会系でインテリ系で大阪のおばちゃん系(?)のIさんとしていると、その延長線上の話として「いつか私、本を書きたいと思ってるんですよ」と夢を語られる。聞けば、画像を含む原稿もある程度できてはいるが、そこから先をどう進めていいのか、と思案中とのこと。
「そうですか。ほな(事務所に)帰ったら出版社へメール打ってみますわ」もちろん心当たりなどあるわけなく、でも、訊ねるくらいなら私でもできるだろうというほんの軽~い気持ちから出た言葉でした。帰社後、マラソンの為と仕事の為とを
兼ねて読みはじめた食や栄養に関するテキスト本3冊ほどを机の上から抜き出し書かれていたアドレスに問い合わせのメールを送信してみました。

結果。1社はなしのつぶて、もう1社は出版不況の厳しい環境により申し訳ありませんが、とのお断りのメール、そして残る1社からの返事は、その先生の経歴などを教えてください、というものでした。(えっ?もしかして。でも、まさかねえ・・)

それから数か月経った8月末頃のこと。何度目かの打ち合わせの為来阪した出版社のN社長、Iさん、そして私の3人は大阪・ミナミの居酒屋でかなり早目の出版の前祝いパーティー(?)を催していました。福祉施設の食事の話や出版業界での苦労話に相槌を打っているうちに、いつの間にか無礼講になり(無礼講にしてしまったのは私です、スミマセン(^^;))以前からの疑問をN社長に投げかけてみました。

「前から聞きたかったんですけど、なんで今回の話に乗りはりましたん?」多分呂律の回っていなかったはずの大阪弁の問いに、白髪の紳士はたしか上品な標準語で答えてくれました。自分での売り込みは結構あるんですよ。でも、他人からの推薦は今回が初めてだったので、興味が湧いて・・・。更には、社長が替わったばかりで、介護食の分野での出版物を出そうと画策中だったから、とのこと。コツコツと原稿を書き上げていくという努力に、ほんのちょっとの偶然が加われば、このような化学反応を起こすこともあるということを目の当たりにし、大変驚かされました。もっとも、その偶然と思える事象の数々もすべて必然なのかもしれませんが。
様々な偶然と必然が織りなす「Iさん劇場」のクライマックスはこれからです。書物は本年春頃発売予定とのことです。

追記(5月某日):その後、本は9月頃発売に決定したそうです。「★一施設からの発信★ 「やわらか食」へのチャレンジ-フィオーレ南海の取り組みとメニュー(仮題)」(岩本恵美著・幸書房)・・・です。最後に、私からひとこと「よろしくお願い申し上げます」。