水戸黄門

7・8年ほど前のことです。ある会合を終え、以前このコーナーでご紹介したことのある得意先の顧問・Uさん(奈良県警OB)を車で自宅まで送る道中、中堅総合病院の前を通りかかりました。
「このあいだ、ここでちょっとトラブルがあってな」
「へえ・・。そういえばUさん、ここも顧問してるって言うてはりましたね。」
以下、Uさんのお話。

厄介な患者さんに因縁をつけられて困っているので明日の夕刻5時に来てください、との事務方よりの連絡を受け、指定時刻に出勤し事務方2人と共に相手の現れるのを待ちました。やがて現れたのはいかにもその筋という20代半ばくらいの声も態度もでかい男。この病院で足を治療したがよけいに悪くなった。どうしてくれるという意味の脅し言葉をわめきたてる。早い話が、「誠意を見せろ」-あちらの業界でいうと「出すものを出せ」-とのこと。男の「勤務先」などある程度の素性は把握しつつ、じっと黙って聞いているUさん。小一時間ほどもその“騒音”が続いたでしょうか、Uさんがおもむろに口を開きました。

「にいちゃん、さっきからでかい声張り上げてから、なんや。そんなデカい声出さんでも目の前におるんやから、聞こえとるわい」
「!?」
「ワシ県警におった者ンや。あんた、○○町の××っちゅうラーメン屋はんでおるらしいな。あんたとこの親分、テキヤやっとった頃から知っとるけど、もっと行儀のええ人やったで」
四課(マル暴)に居た頃に知ったというテキヤの親分、素直に信じられはしませんが今では堅気のラーメン屋をしているというその親分の名前を出され驚いた若い衆。一瞬にして顔色が変わり、まるで印籠を目にした悪党そのもののように「すんまへん」を連発し、帰って行ったとのことでした。悪党撃退、大成功!

「痛快ですね、悪党退治」
「ははは。社長も困ったことあったら何でも相談してや」
「あ・・ありがとうございます(苦笑)。なるべくお世話にならんようにしますんで」

外見は小柄な初代水戸黄門、目だけはマムシのようなそんなUさんが鬼籍に入って5年ほど。天国に悪党がいるのかどうかは知りませんが(多分、いないのでしょうが)、あちらでも悪党退治をしているのだろうか。あの病院の前を通りかかると今でもUさんの顔を思い出します。

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