“匂い”が違う

気が付けば、厨房図面も描ける食品屋さんへと変貌を遂げつつある(?)私ですが、その昔、厨房機器販売を専門にしていた頃の話しです。20年近く前の2月、建国記念日だったと記憶していますが、事務所で図面を描いていました。祝日ということで電話もなく、仕事が捗ります。ピンポーンとインターホンが鳴る。ドアを開けると、見たところ40代半ばの男性がどことなく怪しげなムードを醸し出して立っている。聞けば、大手スーパーのマネージャーを名乗るその男性、和歌山のオジキがスーパーをしており中古の冷蔵ショーケースを探しているとのこと。2階事務所に上がり、店はどれくらいの広さでどれくらいの寸法の品物を探しているのかなど必要事項を訊ねても、一つ一つ考え込む様子で即答できない。(当たり前の質問ばかりなのに、どうもおかしいなあ・・)。とにかく、心当たりを当たって返事する旨を伝えると、オジキから明日電話をします、とのこと。大手スーパーD社の食品関係のマネージャーが祝日に普段着で、名刺も持たずにやってきて、その道の人間なら誰でも即答できるような質問にも答えられない。言葉遣いこそ丁寧だが着こなしはどうも「?」なもの。ひょっとして・・。

どうにも腑に落ちないので、当時は水道配管の設備屋、今ではキックボクシングのジムの会長をしている“さる業界”の事情に詳しいK君に電話を入れてみました。あったことを説明しどう思うかと尋ねたところ、「それ、100パーセント893やわ」。彼によると、それは中古品を買って色々と難癖をつけ、お金を巻き上げるという手口に違いない、と。それに似たところでは、中古車店で値切りたおして買った中古車を正規販売店に持ち込み、エンジンの音が、ドアの締りがなど色々と難癖をつけて新車に交換させるというバージョンもあるとのこと。翌日、オジキを名乗るダミ声の男性から電話が入りましたが、残念ながらお望みの品を見つけることができませんでした、と丁重に取引を辞退しました。

危ういところで難を逃れることができましたが、後年、同業者の一人に尋ねると当時このような手口が流行していたのか、又はトラディショナルなものなのかは知りませんが同じような手口で何度も遠方まで足を運ばされた挙句、散々な目に遭ったと聞いたことがありました。当時の私にそれだけ隙があったのかもしれませんが、ただただ、運の強さに感謝、でした。でも、もしあの時にこの罠に落ちていたら。このコーナーで、もっと“面白い”お話をご紹介できたかもしれませんが(^^;、面白くなくても、平穏無事な毎日が小心者の私にはやっぱりありがたく思えます。

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