Loser(負け犬)

20年近く前の、空手をしていた頃のことです。黒帯も視野に入り、稽古の量と共に自信のようなものもついてきたある日、他支部から全日本クラスの選手が出稽古に来られ、組み手(実際
に叩いたり蹴ったりする稽古)をすることになりました。倒すつもりでかかってきなさいというので、よっしゃ!とばかりに勢いこんで向かって行くと・・・顔面を蹴られ、水月(鳩尾=みぞおち)にヒザをぶち込まれ、腿を蹴られと、たった1分の組み手の間に4度も床に這わされてしまい、やっと芽生えかけた自信など、こっぱ微塵にうち砕かれてしまいました。稽古を終えた帰り道、ハンドルにもたれかかりつつ、かろうじて自由になる右足で自転車のペダルをこぎながらつぶやくのは、もちろんこの言葉しかない 「よっしゃ、今日はこれくらいにしといたる・・」(大阪人って、もう・・^^;)

つい先日、キックのジムをしているK君に呼ばれ、試合観戦に行きました。いつもながら、選手達の緊張感や真剣さが伝わってきて、闘争心などすっかり忘れてしまった自分に刺激を与えてくれます。若い頃のように、デカい声を張り上げて声援を送ることはもうありませんが、それでも他のジム所属の選手の勝利にも精一杯拍手を送っている自分がいます。勝者はいつでも輝いて見え、みな同じ表情をしていますが、いつも気になるのは敗者の表情。試合に負けてセコンドと共に引き上げて来る選手には様々な表情があります。判定に対する不満を口にしている選手、じっと悔しさをこらえている選手、そして表情からは何も読みとることのできない泰然自若とした選手など。言いたいことは山ほどあるのでしょうが、それらを全て自分の中にのみ込んでしまっている様子に感動を覚えます。
以前は、何を考えているのかわからないポーカーフェイスは、どちらかと言えば苦手なタイプだったのですが、今では自分の感情をコントロールできる強い人間、と思うようになりました。
スポーツ選手に限らず、負けたときにどんな言葉を吐くか、どんな態度をとるかで、人間の値打
ちってある意味決まるような気がしています。
そう考えてみると、池乃めだかさんのあの言葉、男の美学を表現しているとも言えるでしょう。ボコボコにやられた後「よっしゃ、今日はこれくらいにしといたる・・」 カッコいいなあ・・・

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