必死なのですⅡ

毎度毎度のごとく、躁と鬱とを日替わりで繰り返していた8月のある暑い日曜日のこと、やれやれまた鬱に突入かという時、ふとK先輩の顔を思い出しました。久しぶりにメールをしてみようか。ということで高校の一つ上で、大学時代ボクシングジムでも一緒だったK先輩に、何を書こうかと思案しはじめました。でも、気をつけよう。この人はネガティブな話が大嫌いだもんなぁ。

「長野、悪いけど、スパーの相手してくれるか」「はい」30年近く前のことです。ジムの会長に何度か私とのスパーリングを命じられても、理由をつけては断るのを見るにつけ、(ふふっ、オレを怖がっているな・・・)などと夢想していましたが、プロでのデビュー戦を前に、練習嫌いのK先輩もスパーリングを多くこなさなければならない時期にきていました。
(よっしゃ、遠慮なく行くで。でも、先輩を本気でシバくのはちょっと悪いかな)
さて、ゴングが鳴るといつものようにやみくもに手を出すが、全くかすりもしない。通常、4回戦の選手(プロの初級)が相手なら、これだけ手を出せば一発や二発くらいはヒットし、そこそこの打ち合いはできるのに。息があがり焦り始めた頃、ラスト30秒のブザーが鳴りました。その音を合図に、今まで全く手を出さなかったK先輩が一気に攻撃に転じてきました。ガツン!という音と共に目の前が真っ暗になり、その後は首から上がちぎれるのではないか、というほど打たれまくったところで1ラウンド終了。気を取り直して2ラウンド目も同じように向かって行くが今度はラウンド前半からラッシュの嵐が続きます。(やばい、殺される)完膚無きまでに叩きのめされ、やっと恐怖の6分間が終わりました。鼻血を滲ませ、ガンガン痛む頭を時々左右に振る私にK先輩が言いました。
「サンキュー、練習になったわ。ホンマは、(後輩である)お前をシバきたくなかってんけどなあ」
ジムにはたまにしか顔を出さないK先輩と、毎朝のロードワークは欠かさず練習も決して休まない私。少しくらいの努力など、才能の前には全く無力だということを、思い知りました。

さて、その後K先輩は、某中堅商社タイ駐在員になり、やがてそこで独立・起業しました。当時はお金に不自由し、新婚の奥様と、「なんで俺らこんなにカネないんやろなあ」と屋台での夕食で苦笑いの日々でしたが、今では関連合弁会社含め、200名ほどのスタッフがいるそうです。
リーマンショックに見舞われ、洪水により工場と家が被災し、今年は買収した新工場が稼働2週
間後の隣接工場からの火事で被災しました。そんなK先輩からの返信メール。
「(前略)でも、人間それでも立ち直れるものだと言うことがわかりました。周りは心から心配してくれますが、当の本人は必死でやってるのでそれどころではなくて気がつくと復活しているのです」そう言えば、以前会った時はライバル企業が卑怯な手を使って顧客争奪をしかけてきているが、相手が卑怯な手を使えば使うほど、正攻法で行く、とおっしゃってました。何事もスマートに器用にこなす人ですが、苦境時には、やはり原理原則に則って必死に取り組め。そうすれば突破口が開ける、と教えられたこともありました。会う機会はほとんどなく、メールだけのおつきあいながら、いつも色々と教えられます。ところでこの先輩、体型は当時とはかなり変わって“大型化”してしまっています。もしも今、グローブをつけて打ち合いをしたら・・・。今なら、一発くらいはヒットするかも^^

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