ヘビー・ローテーションはつらいよ

遺伝性なのかウィルス性なのか、「金欠病」という恐ろしい病(?)に冒され始めた15年ほど前、タイ国在住のT君より結婚するので友人代表のスピーチを、との依頼を受けました。ひと前で話すのが大の苦手の私。カンニンしてくれと懇願しても、死んだフリしても中学以来のつきあいということで許してもらえそうもなく、旅費、ホテル代は全てT君持ちというダメ押しの甘言で、しぶしぶ引き受けてしまいました。世間相場のお祝い金をなんとか工面し、着替えの半袖カッターシャツにネクタイと共に鞄の底にしっかり収め、サイフの中には諭吉さん一枚と小銭数枚。2泊3日の旅程なのに現在の東京日帰り出張時より鞄もサイフも軽い状態で機上の人となりました。貧乏神と疫病神に一度に取り憑かれたような悲惨な日々ながら、一応神サンと呼ばれるおふた方、まさかタイまで追いかけて来るような無慈悲なことはなさるまいとタカを括りつつ・・・。

苦手なスピーチもなんとか終え、さて夜はトムヤムクンとシンハービールで久しぶりにささやかな贅沢をなどと思いを巡らせていると、やはりというか案の定というべきか、T君の親戚数名の接待役を仰せつかってしまいました。はいはい、わかりましたよ、ということで近くのレストランで痛飲し、ひたすら痛いタイ式マッサージ、そして軽くお茶というコースでおもてなしすると、彼の伯父さんが、「はあ~、はじめて海外来たけどこんな楽しいんやったらもう一回くらい(T君が)結婚してくれへんかなあ。わっはっはっ」(コラコラ、おっちゃん^^;)

早くも二日酔い気味の頭で深夜ホテルの部屋に戻り、さてシャワーでも浴びて寝るか、というところではたと気付きました。(あっ!!カネが無いッ!!)サイフの中を確認すると小銭が数枚だけ。今でも宴席の幹事などすると、電卓を手にしていても気がつけばいつもサイフの中身が空っぽ。 つい気が大きくなってしまったり、酩酊して計算能力が無くなったり、つまり悪いのはすべて私自身・・・と反省などしている時ではない。う~む、困った。食事は全て我慢したとしても、空港までのバス又はタクシー代、出国税などをどうしよう。酔いも醒め、頭をかかえていると、ふと、T君が今晩このホテルに泊まっていると言ってたのを思い出しました。フロントへ急ぎ、怪しまれながらも彼の部屋番号を聞きだし、エレベーターが開くのも待ちきれず彼の部屋までダッシュする。ドアを激しくノックすると、ややあってT君が顔を覗かせる。
「すまん!全部使うてしもた。カネ貸してくれ」呆れたT君の表情、今でもはっきり覚えています。あれから15年ほど。あの晩、私がジャマしたからでは多分ないのでしょうが、子どもに恵まれなかったT君に今月やっと第一子が誕生するそうです。ずいぶん長くかかったけど、T君、おめでとう。
降ればどしゃ降り、踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂、などなど。悪いときには悪いことが重なって起きるのは、古今東西誰にでも共通するのでしょう。でも、運の良し悪しを云々する前に自分の性格や行動に思いをいたせば、たいていの事象は自分の蒔いた種によるものだと納得するものです。あれから数年ごとに、いつもカップルで私の後ろにピッタリと密着してくださるあまりありがたくない神サンおふた方。来るな、なんて罰当たりなことは申しません。でも、せめてもうちょっとローテーションの間隔を空け、滞在時間を短くしていただき、願わくば手加減を加えるなどして下さるとありがたいのですが・・・

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