ドキュメント・二万分の一

11月25日(日)快晴。神戸マラソン。テーマは「感謝と友情」。震災から復興を遂げた街が、新たな震災による被災地からも多くの方々を招いてのレース。開会セレモニーでは、地元及び東北地方の被災地の高校生による鎮魂の歌が披露される。17年前に自然によって破壊され尽くされながら今では元気に蘇った街の青く晴れ渡った空の下で、今なお震災の爪跡に苦しんでいる街の今日の姿を思うと、目頭が熱くなりかける。(あ、あかん、やばい・・)なんとか堪(こら)えた。
午前9時、号砲と共に我々ランナーたちはスタートを切った。参加者は約2万人。大規模な都市型のレースは始めてなので、沿道の人の多さに驚く(後日、約55万人と発表されていた)。

普段は情けない思いばかりしているが、この日ばかりはそんな私でも主役。そう、ヒーロー。
他の2万人の誰もがきっとそう思っているに違いないと自分一人で納得する。
3キロあたりでゲストランナーの君原健二さんを追い抜く。「こんにちは!」 挨拶すると同じ言葉が返ってきた。(う~む・・感動。確か70歳を超えていたと思うが。自分は20年後に、はたしてこのようなレースで走る気力と体力があるだろうか)。5キロあたりでは、「負けねぞ ふくしま」という文字が背に書かれたシャツを着たランナーに沿道から「がんばれ!ふくしま!!」との大声援が送られる。(うっ、あかん、また・・)再び、なんとか堪えた。被災地からのランナー達の腕には緑色のリボンが付けられており、沿道の声援もひときわ大きかった。(神戸。熱い街だ)。

どの大会でも仮装ランナーは、見ていてとても楽しい。そして、(走力の)レベルの高い人が多い。10キロあたりからは、ずっとカニの被り物をかぶったオカマちゃんの後ろを走っていた。青いワンピースのスパンコールが太陽の光を浴びてキラキラ輝いている。普段ならネオンに妖しい輝きを放っているのだろう。沿道の観客は彼(彼女?)を指さし、ゲラゲラ笑っている。そんな状態がずっと続くので、後ろをつくようにして走る私まで笑われ続けているような錯覚に陥る。(コラ、おっさん、恥ずかしいやないか^^;)。20キロあたりでようやく追い抜くことができた。

それにしても、さすがは大規模都市型のレース、声援が全く途切れることがない。「皆さんの応援のおかげでいい結果を残すことができました」と様々なスポーツなどでヒーロー、ヒロインがインタビューで話しているのを見かけるが、あれは決してキレイゴトではないと断言できる。日々、周りの人に支えられて生きているという自覚が少しはあるつもりだが、このような場では身をもって強烈に体験できる。沿道の観客も給水所のボランティアの人達も、、みんな俺だけの応援団、そして他の二万人のランナーは、ライバルではなく全員が俺だけのペースメーカー。全員に、感謝。

以前なら35キロあたりからはあまりの辛さに、半泣きになりながら、(二度と走るか、ぼけぇ!)と腹の中で叫び続けていたが、今回は少しばかり違う。沿道の方々やボランティアの人たちに、この一日に少なくとも500回以上は「ありがとう!」「サンキュー!」と言った(叫んだ)と思う。結果。3時間15分56秒。ベストタイム更新。春に、酒席で言ってしまった単なる願望を実現できてよかった。嘘つきにならなくて本当によかった。その席にいた誰も覚えてなどいないだろうが、しばし自己満足に浸ることくらいはできる。必ずしも楽しいことばかりではない、いや、つらい事の方がおそらく多い人生に、立ち向かっていける勇気をもらったような気がする。ありがとう、神戸。

本年も一年間このメール・マガジンをご愛読いただき、本当にありがとうございました。少し早いですが皆さま、どうぞよいお年をお迎えください。

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気になるなあ