あの頃の自分に逢いに行こう大作戦-後編-

大手旅行会社など他社が催行を見合わせる中、今回このツアーを企画した横浜の旅行

会社の社長Kさん。社員4名ほどの零細企業でありながら今回催行した理由を尋ねる

と、自分が走りたいから、という明快な答えが返ってきました。コロナ禍で旅行会社

の経営が厳しいのは、私にも想像がつきます。今回集まったのは例年の三分の一ほど

の人数に過ぎません。それでも今度こそ3時間を切って自己ベストを更新したいと、

決意の出走となりました。結局、目標には4分ほど及びませんでしたが、その疲れも

癒えないのに、レース翌日には同じオーストラリアで2か月後に開催されるシドニー

マラソンの案内をHPにアップしていました。「ひょっとしてKさん、シドニーも走り

ますのん?」「はい。今度こそサブ3(3時間切り)やりたいですから」はあ・・。この

人数で採算が合うのだろうかと他人ごとながら心配しつつも、これだけ好きな事を仕

事にして追い求めることができたら幸せだろうな、と。

沖縄から参加の40代半ばのSさん。4時間半ほどだったタイムを一気に30分以上縮

めて自己ベストを更新し、マラソンに本格的にはまる瞬間に立ち会ったような思いで

した。どんな練習をしたらいいのかと尋ねられ自分なりの意見を伝え、自分にとって

効果のあったランニングギア(グッズ)を紹介しました。するとSさんはその場でスマ

ホを取り出し、Amazonのサイトにアクセスしつつ、「ええっと・・これですか?」

「そうそう。ちょっと高いけど、結構いいですよ」「(ポチッ)・・はい、買いまし

た」「はあ?」昨日会ったばかりの人間の言うがままに2万円近くするものをその場

で買っていました。この方は幼稚園を7軒ほど経営する実業家。経済的な余裕がある

のかもしれませんが、この決断の速さ。きっと仕事でも即断即決し、好循環の中にい

るのでしょう。見習いたいものです。

さて、レースが無事終了しました。3時間19分と、最低限の目標タイムをクリアし、

ほっと一息つきながらホテルへ向かいました。道中、すきっ腹にケバブとビール1本

でほろ酔い加減になり、ふと35年前のN青年に逢いたくなり海岸に足を向けました。

砂浜をそぞろ歩きしつつ彼の行く先を思い、こう話しかけます。

「これからしんどいでぇ」「そう?でも大丈夫。なんとかなるやろ」35年後の姿を知

らないN青年はそう答えます。彼を失望させない生き方をしなくてはなぁ。