あたまくるわ
寒さが少し緩んだ2月のある夜、知り合いのお父様の通夜式に参列しました。式場の
お寺近辺には駐車場はないため、少し離れた駐車場に車を停めました。式からの帰り
道、暗い夜道を片側一車線の道路脇を歩いていると、道沿いに5軒長屋のアパート
があり、その中の1軒から配達を終えた配達員のおじさんが「はいわかりました。
おおきに~!」と一室のドアを閉め出てきました。おじさんも私と同じ方向の場所に
駐車しているようで、丁度私のすぐ前を歩くような格好になりました。
「(ぶつぶつぶつ)なんで電話なんかせなあかんのや!(ぶつぶつ)・・あほか!!
(ぶつぶつぶつぶつ)・・二度と来るか、ぼけ!!!」
なにやら大変ご立腹の様子で時折、立ち止まって地面を強く踏みつけ怒りをぶつけて
います。私との距離が次第に小さくなり、おじさんが車のドアを開けたところで丁度
追いついたような格好になりました。そこで彼の怒りは最高潮に達したとみえて、軽
四のドアを開けながら「ええかげんにせえ!どあほ!」
発する言葉の激しさとはうらはらに、その後ろ姿があまりにもユーモラスだったので
つい立ち止まり思わず声をかけてしまいました。「まあまあ。そんなに怒らんと」
暗闇から突然現れた黒ネクタイの礼服姿の男に気づいたおじさん、街灯には60歳前
後とおぼしき少しくたびれたそして驚いたような表情が浮かびあがっています。やが
て怒りの理由を説明しはじめました。「腹立ちまっせ!あの家いつもそうですねん」
なんでも、その家に配達に頻繁に行くが、家に居ても一回で出てきたためしが一度も
ないとのこと。再配達の指定時間に行っても同じで1週間連続ですっぽかされたこと
もある、とも。「そりゃ、ひどいなあ」「でっしゃろ(注:関西弁「そうでしょ)」
ライトバンの中には、まだ2・30個ほどの荷物が積まれており、いずれも「a○azon」
のマークが入っています。なるほど、このおじさんは日○郵便の下請けの個人事業主
で決して依頼主であるお客様のそのまたお客様と争うようなことがあってはならない立場
にあるようです。どんなに腹が立ってもひたすら我慢か。つらいだろうな。
10分ばかり怒りの理由の数々を聞いていたでしょうか。少し落ち着きを取り戻し
た様子になり、街灯に照らされたおじさんの顔にやっと笑顔が浮かびました。
「すんまへんなあ。見ず知らずの人にこんなこと言うて」「いやいや。腹立つことも
たーーくさんあるけど、まあ、お互い体壊さんように生きましょうや」
「はい!ほな、行きますわ。すんまへん。おおきに!!」
やり場のない怒りの蓄積で寿命を縮めなければいいのですが。ところで、喪主の方に
よると、この日旅立たれたのは好きな事して好きな事言って最後は苦しむこともなく
気がつけば・・という最期だったそうです。享年96歳。ある意味理想ではあるのかも
しれません。怒りやストレス。たまには発散させた方がいいのでしょうね。