ポツンと一軒家

姓が長野なのに自宅から片道約5時間半と、札幌や那覇に行くよりも時間がかかり、
私にとって近くて遠い県。先月23日の長野マラソン参加のために訪問となりました。
無事走り終えるとさっさと着替えを済ませ、シャトルバスで駅へと向かいました。
バスを降りるとそこには以前通っていた空手道場の友人で、今は長野県某郡の山奥の
家に住んでいるKさんが待っていました。私より5つ年上ながら、童顔で20ほども
若く見えるのは当時と変わっていません。「久しぶりですねー」「ほんまに。たしか
26・7年ぶりくらい?」駅近くの中華料理店で乾杯しながら昔話に花が咲きました。

道場に通っていたころ、阪神淡路大震災が発生し復興のため日本中から大工さんが神戸
に集まりました。人手が不足する中、神戸で仕事をしてくれる人がいたらぜひ紹介を、
と知り合いの工務店経営者から依頼がありました。道場の仲間Kさんに相談すると、そ
れなら自分が、と工場勤務のかたわら土日には工務店の作業員として働いてくれました。
そんな男気あふれるKさん、復興の仕事が一段落すると本業も辞めて大阪を離れ、長野県
のスキー場、やがて、障害者施設に職を得ました。そこでの仕事ぶりが評価されたのでし
ょう、よそ者なのに地元の方が、10人は住めるような一軒家を無料(ただ)同然の金額で
貸してくれ、そこで暮らすようになりました。裏の畑でじゃがいもなどを作り、チェーン
ソーで木を切って燃料にし、時には近所の人の持ってきてくれる鹿の肉などでたんぱく源
を補給したりと、文字通り自給自足の生活をしているとのことでした。少ない年金でも光
熱費などはほぼ無料。生活にはさほど苦労はないそうで、車中泊で気の向くままひと月以
上全国各地に赴いたりと、自由人そのものの生活です。ただ、事情があってずいぶん以前
に離ればなれになってしまった娘さんには、たまに電話で叱られるそうですが・・・。

駅改札まで見送ってくれたKさんに「ほな、元気でおってくださいね」と握手を求める
と、私の差し出した右手をぐっと引き寄せながら膝蹴りが飛んできます。体勢を崩しな
がらも咄嗟に体をひねって右ひじでブロックして左ひざを相手の水月(みぞおち)に合
わせる。やがて、顔を見合わせて大笑いしてしまいました。60歳オーバーのおっさん2
人が小学生のようにじゃれ合っている様子。道行く人たちにはどう映っただろう(^^;
Kさんのような生き方はできませんが、これからもあくせくしながら都会の片隅で生き
ていこう・・帰りの列車の中、窓の外をぼんやりながめながら考えていました。